銀色の月は太陽の隣で笑う

間髪いれずに続けた言葉に、ルウンの表情がまた嫌そうに変わりかけるが、観念したように渋々と唇が動いた。


「分かった。すぐだから、待っていて」


頭を撫でていた手が離れていく瞬間、ルウンはほんの少しだけ名残惜しそうにトーマを見やる。その視線に気がつかぬまま、トーマは寝室を出てキッチンに向かった。


「薬、か……。きっとルンは、嫌がるだろうな」


種類によって差はあれど、総じて薬とは高価なもの。簡単に他人に贈れるものではないし、贈られた側も、よほど近しい間柄でない限り普通は気に病む。

雨季の間の宿代として受け取ってもらえればトーマとしては気が楽なのだが、きっとルウンの方はそうもいかないだろうことは容易に想像できる。


「どうしたものか……」


キッチンの調理台の前、トーマは難しい顔で腕を組み立ち尽くす。

素人の触診はあまり当てにならないかもしれないが、おそらく初日からほとんど熱が下がっていない。

そのせいか食欲もなく、スープならばというオーダーに従って作ってはみても、食は思ったほどに進まない。

思考が薬を求め始めたところでぶつかるのは、窓を叩く横殴りの雨。

雨が嫌いではないトーマも、この時ばかりは流石に煩わしく感じてしまう。


「どうしたものか……」


同じセリフを呟きながらため息をついて、トーマはようやくルウンの食事を作るために動き出した。



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