銀色の月は太陽の隣で笑う
「えっと……今日はもう遅いし、続きは明日ってことで、いいかな?」
まじまじと自分の手を見つめる少女に、トーマは遠慮がちに問いかける。
手からトーマに視線を移した少女は、コクっと頷いて立ち上がった。
手の平や服についた汚れをパンパンと払い落として、ほんの少し迷った末に、少女はトーマに向かってペコッと頭を下げ、踵を返して走り出す。
「あっ!ちょっと待って」
慌てたように呼び止めるトーマの声に、少女は足を止めて振り返った。
「重ね重ね申し訳ないんだけど、何度も森を往復するのは大変だから、もし良かったらしばらくこの場所を使わせてもらってもいいかな?大丈夫!絶対にこれ以上はキミの家に近づいたりしないし、外にあるものだって、勝手に触ったりしないから」
少女は、すっかり暗闇に沈んだ森に一度視線を移す。
危険な動物はいない場所だけれど、確かにこの時間に森を抜けるのは一苦労だ。
それに、近隣の村まで辿り着いたところで、朝が早い村人がこんな時間に起きているとは思えない。