銀色の月は太陽の隣で笑う
誰もいない部屋の中で、魔法使いは立ち尽くした。
家中を探し回っても、彼女の姿はどこにもない。
そんな時にね、開けっ放しだった窓の向こうから、遠く微かに声が聞こえたんだ。
それは、啜り泣きと悲しげな余韻漂う、葬送の歌。
魔法使いは、その歌声を追いかけた。声が聞こえる方へ、窓から彼女の部屋を飛び出して。
段々と近くなる涙の混じった歌声と、それに呼応するように高鳴り出す心臓。
魔法使いが辿り着いたその場所で、彼女は静かに目を閉じていた。
色濃く漂う死の気配に、彼女を囲んでいる者達は涙にくれる。
呆然と立ち尽くす魔法使いに気づくものはなく、魔法使いもまた、彼女以外の存在など視界に写ってすらいなかった。
――ああ、そうか。ついに来てしまったのか。
彼女との永遠の別れが、すぐそこにあった。
その時、息絶える間際の彼女が、不意に目を開けたんだ。
その目はしっかりと魔法使いを捉えていて、捉えられた魔法使いは、引き寄せられるように彼女の元へと近づいていった。
咎めるものは誰もいない。
まるで、誰ひとりとして魔法使いの姿など見えていないように。いやむしろ、彼女と魔法使い以外の全ての人間の時が止まってしまったように。
そこには気配がなく、音もなく、啜り泣きも葬送の歌も聞こえては来なかった。