銀色の月は太陽の隣で笑う
“やっと、会えた”
嬉しそうに唇を動かした彼女が、そっと手を伸ばす。かつて若々しさに溢れていたその手は、今では年相応の皺を刻んで冷たい。
伸ばされた手を無意識に取って握り締め、魔法使いは頷いた。
この時、自分が鳥の姿に変わることをすっかり忘れていたのを思い出したけど、もうそんなことはどうでもよかったんだ。
だって彼女が、とても嬉しそうに笑っていたから。
“あなたに会いたくて、何度も探しに行ったの。だって一人ぼっちは、とても寂しいものだから”
彼女が森へと足繁く通った理由は、優しくて、単純で、だからこそ魔法使いには理解できなかった。
一人ぼっちは寂しいから、だから彼女は会いに通った。少しでも、魔法使いの寂しさを和らげるために――。
彼女の願い通り、魔法使いは寂しくなかった。彼女と一緒にいる間だけは。
でもおかげで、寂しいという感情を知ってしまったんだ。もう、彼女はいなくなってしまうのに。
“会えてよかった”
最期にそう言って、彼女は笑顔で息を引き取った。その瞬間、周りに音が戻ってきたんだ。
だから、彼女の傍らに立つ魔法使いに気がついた人達が驚いたように彼を見た時、魔法使いは逃げるようにしてその場を離れた。
大切な存在が、その大切さに気づいた途端に遠くにいってしまった。