銀色の月は太陽の隣で笑う
もうどちらが本当かなんて、ルウンの中ではさしたる問題ではなくなった。ただトーマの言う通り、ワクワクして、楽しかった。
もっともっとトーマの話が聞きたい。トーマの知っているお話が聞きたい。
それなのに、不意に零れた咳に、トーマの楽しげな表情が申し訳なさそうに一変する。
「そろそろ休もうか。ちょっと待っていて」
早足に寝室を出て行ったトーマは、氷水の入ったボウルを持って戻ってくる。
「新しいのに変えよう。それから、ゆっくり休むといいよ」
額に感じる、ひんやりしたタオルの温度は心地いいが、残念な気持ちは拭えない。
ルウンがそっと伸ばした手で袖口を掴むと、トーマは苦笑しながら丸椅子に腰を下ろした。
それでようやく気持ちが少し落ち着いて、ルウンはそっと目を閉じる。
「大丈夫。ここに居るから」
聞こえてきた声に一度目を開けると、ルウンは掴んでいた袖口から手を離して、ジッとトーマを見つめる。
袖口を掴むのはトーマをこの場に引き止めるためであったが、“ここにいる”と言ってくれるのであれば、もっと別のものが欲しかった。
ん?と首を傾げるトーマに向かって、ルウンは一度引っ込めた手をまたおずおずと伸ばす。
伸ばした手は袖口を掴むことなく、所在無さげに空を漂った。