銀色の月は太陽の隣で笑う
少女が視線を戻してコクっと頷くと、トーマはありがとうと嬉しそうに笑った。
それからしばらく、少女は迷うように立ち尽くす。
何か言うべきか、言うとしたら何を言うべきか、ぐるぐると考えて頭を悩ませる少女に、トーマはにっこり笑って手を振った。
「また明日ね」
ふるふると振られる手と、トーマの笑顔をしばらく見つめて、少女はそうっと手を持ち上げると、おずおずと振り返した。
そうしてようやく足を前に動かすと、通り過ぎそうになったテーブルの横で慌てて立ち止まり、ティーセットが載ったお盆と、パンが入ったバスケットを持ってまた歩き出す。
中身がたっぷり入っているティーカップは、気を付けないと零れてしまうため、慎重にゆっくりと足を動かす。
ようやく館の中に入って扉を閉めると、少女は深く息を吐いた。
笑顔で手を振るトーマの姿と、その時の言葉が頭の中に蘇る。
「また、明日……」
初めて言われたその言葉を、少女は噛み締めるようにそっと呟いた。
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