銀色の月は太陽の隣で笑う
顔にかかった髪をそっと指先で寄せてみると、頬に残った涙の筋が目に映った。
「そんなに、寂しかったのか……」
出会った時から今まで、そんな素振りは全く見せなかった。
けれど考えてみればそれも当然で、突然現れた旅人なんかに、自分の心の奥深くに閉じ込めた思いを口にする人はいない。
アルコールの力があったとしても、普段決して見せないようにしていた感情を表に出してくれたことが、素直な気持ちを自分に話してくれたことが、トーマには嬉しかった。
”寂しい”と言って泣いた少女は、こんなにも小さくて、こんなにも脆い――。
「気づいてあげられなくて、ごめんね」
小さな体が次第に熱を持ち、その額に薄らと汗が浮かぶ。
ベッドに運ばなければと立ち上がった時、倒れていた椅子が足に当たって、カタンと微かに音を立てた。
その瞬間、幸せそうに頬を緩めて飛びついてきたルウンの顔が頭に浮かぶ。
窓の向こうは、相変わらずの雨。しかしいつかは、その雨も止む。
雨が止み、雨期が過ぎてしまったら――。
トーマはふるりと一度頭を振ると、それ以上考えるのをやめて、抱き上げたルウンを落とさないようにゆっくりと寝室に向けて歩き出した。