銀色の月は太陽の隣で笑う
食器を洗い終えて戻ってきたトーマは、テーブルの上に置き去りにされたハンカチをしばらくぼんやりと見つめ、それから寝室の方へと視線を移した。
パタパタと駆けていく足音は聞こえていたけれど、振り返ってはいけないと思っていた。
ルウンが突然泣き出した理由は分からない。だから振り返ってもし目が合っても、かけるべき言葉が見つからない。
目を合わせて黙り込んでいるくらいなら、最初から振り返らない方がずっといい。
女の子を泣かせたことなんて未だかつてなかったことだから、やはり恋愛の物語を読み込んでおくか、もしくは旅芸人一座の花形で、落とした女は数知れずと豪語する男にもっと話を聞いておくべきだったと後悔する。
それをしていたところで、今の自分の助けになったかと考えれば、また難しいところではあるが。
「……それでも、もうちょっとマシな対応は、できたはずだよな」
今のトーマには、ハンカチを置いて席を立つことが、精一杯の対応だった。それが最善かと問われれば、答えに詰まってしまうけれど。
「悲しいって、そう思って泣いてくれたのかな……」
そうだったら嬉しいけれど、そうである保証はない。どうしても、また自分に都合のいいように仮定を組み立てているだけなのではと思えてしまう。
人の気持ちは複雑怪奇で、涙にも様々種類がある。それを思うと、ルウンの涙のわけが計りきれなかった。