銀色の月は太陽の隣で笑う
はあ……と重たい息を吐き出すと、トーマは疲れたようにドカッと椅子に腰を下ろす。本当はベッドに体を横たえてしまいたかったが、二階まで階段を上がっていく気力がない。
「なんか……思っていたのと、全然違うな」
人を好きになるというのは、もっと甘くて温かくて優しくて、まるで砂糖菓子を食べているような気持ちになれるものだと思っていた。
カリッと歯を立てた砂糖菓子が、ほろりと崩れて口の中で溶けていくような。その甘さに思わず頬が緩んでしまうような――恋とは、そういうものだと。
「春の日溜まりの中にいるみたいな、そんな温かな気持ちになれるものだと思っていたのに……。実際は、木枯らし吹き荒れる冬だな」
自分で言ってから自嘲気味に笑って、また重たく息を吐く。
こんなに辛いものなら、恋なんてするんじゃなかったと思ってしまうのは、逃げだろうか――。
例えそうだったとしても、綺麗な思い出だけを胸に旅立ちたかったと思ってしまう。
「僕もまだまだだな……。物書きとしても、男としても、半人前だ」
旅立つことを決めたのは、これ以上気持ちが大きくなっては困るから。それなのに、一緒にいればとめどなく気持ちが溢れ出す。
背もたれにだらしなく預けていた体を起こし、トーマは窓に視線を向ける。
見えた空は、灰色の雲間から綺麗な青が覗いていた。
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