銀色の月は太陽の隣で笑う
当然そこには誰もおらず、人の気配がなくなってから相当時間が経っている事を感じさせる、冷え冷えとした空気に満ちている。
それでもルウンは足音を忍ばせるようにして寝室を出ると、そっと隣の部屋に移動して椅子の背もたれに手を掛けた。
テーブルの上には、あの時トーマが出してくれたハンカチが、そのまま置きっぱなしになっている。
背もたれに手をかけたままそのハンカチをジッと見つめ、しばらくして屋根裏へと続く階段に視線を移す。
彼は、お昼を食べただろうか。お茶はしていないにしても、夕飯はどうだろう。
聞きに行こうかと足が前に出たが、すぐに躊躇うように歩みを止める。
会いたいけれど、会いに行くのが怖かった。
階段を上った先で、荷造りなんてしている姿を見てしまったら、すぐそこに迫った別れを実感させられるから。
階段から逸らした視線を今度は窓に向けると、ルウンは吸い寄せられるように窓辺へと近づいていく。
雲が流れるたび、その隙間を縫うようにして顔を出す月が、淡く柔らかい光で庭を照らす。穏やかなその光景でさえ、今は見ているのが辛かった。