銀色の月は太陽の隣で笑う
雨が止んでしまった空は、ただただトーマとの別れをルウンへと突きつける。
二人で過ごした、温かい日々が終わる。また、一人ぼっちに戻る。
一度温かさを知ってしまったら、もう知る前には戻れない。何も知らなかった頃のようには、暮らせない。
出会った日から今日までの間に、トーマがくれたたくさんの優しさ。
本人は何も返せなかったと言うけれど、ルウンはもう充分すぎるほどに貰っていた。
日向の香りがする太陽は、森の奥に佇む古びた洋館を、そこで暮らす一人の少女を、明るく優しい光で照らしてくれたのだ。
この気持ちを、伝えたい。
ありがとうでは伝えきれないこの気持ちを、全てトーマに届けたい。
胸が熱くて、痛くて、苦しいほどのこの感情を――。
けれど、言葉にすればきっと簡単なはずなのに、ルウンにはその言葉が分からない。この感情を表すはずの名前が、どうしても。
トーマには、嫌だ行かないでと喚く代わりに、その言葉を伝えたい。決して引き止めてはいけない旅人に、今のルウンが贈れるもの。贈りたいもの。
窓の向こう、雲間に覗く月を見つめて、ルウンは必死に探していた。