銀色の月は太陽の隣で笑う
視線を向ければ、木々が鬱蒼と生い茂る森が見える。
トーマがやってきたのはその森の向こうで、森を抜ければ村があり、更に進めば町がある。町まで出れば、中心地たる街まで連れて行ってくれる乗り物も多くある事くらいは、知識としてルウンも知っていた。
知ってはいるが、実際に行ったことはない。
買い物はいつも村までやって来る行商人からしていて、その向こうの町、更に向こうの中心地たる街は、ルウンにとっては未知の場所だった。
どこに行ったかも分からないトーマを探して、見知らぬ景色の中をあてもなく歩き続ける自分の姿を想像して、ルウンは諦めに似たため息を一つ零す。
きっと行ったら最後、自分は帰り道を見失う。
世界を知らなすぎるちっぽけな少女が踏み込むには、中心地たる街は大きすぎる。
そこを目指して多くの人が集まり、多くの物も集まり、活気づいたその場所に、慣れない者は飲み込まれる。
トボトボと来た道を戻るルウンの上で、鳥達がおやつを強請るように鳴いていた。
けれど今のルウンには、それに応える余裕はない。
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