銀色の月は太陽の隣で笑う
これが、お別れの手紙であると決まったわけではない。それ以外に何があるのだと、心の中で訴えてくるものがあったけれど、ルウンは無視した。
トーマは、こんな紙切れ一枚でサラリと別れを告げて出ていくような人ではない。そんな人ではないはずなのだ。
そう思ってはみても、不安はしつこくルウンに絡みついてくる。
それを振り切るようにキッチンへと戻り、放置していたストロベリーリーフの瓶を掴んで、いつものポットにスプーンで三杯入れた。
忘れていたヤカンも火にかけて、あとは沸くのを待つばかり。当然のように、カップも二人分用意した。
キッチンにふわふわと漂う甘酸っぱい香りに包まれながら、お湯が沸くのを待っていたルウンは、ふと扉の方を振り返る。
そこにはもちろん誰もいないし、これから誰かが入ってくるわけでもなかったが、なぜだか視線が離せなかった。
しばらくそうして扉の方に視線を注いでいたルウンを、ヤカンが忙しない音を立てて呼び戻す。
お湯が沸いてもまだ、ルウンの意識は扉の方を向いていた。
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