銀色の月は太陽の隣で笑う


「いい天気だな……」


その頃トーマは、未だ枕代わりのバッグに頭を載せたまま、手でひさしを作って青い空を見上げていた。


「本当にいい天気だな……。こんな天気がいい日は、一日中寝ていたくなる」


ポツリと呟いて目を閉じたトーマは、それから数秒もしないうちにパッチリと目を開けて、言葉とは裏腹に勢いをつけて体を起こした。

すぐに視界いっぱいに広がったのは森の木々。

振り返れば、レンガ造りの洋館が佇んでいる。

絡まり放題の蔦や、所々ひび割れて崩れかけたレンガが、一見すると廃屋のような雰囲気を漂わせているその館。

けれどそこには、確かな生活感がある。

例えば、耳を澄ませば聞こえてくる鶏達の声、風に揺れる洗濯物、そして微かに漂ってくる美味しそうな匂い。

廃屋のようであって、廃屋ではない。

それが、トーマの心を躍らせる。


「物語の舞台になるべくしてここにある、正しくそんな感じだな」
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