銀色の月は太陽の隣で笑う

吐息に混じって零れ落ちたようなそのセリフは、きっと聞かせるためではなくただの独り言だから、ルウンはそのまま抱きしめられる感覚に浸り続ける。


「ルンは言ってくれたよね、“帰ってこないかと思った”って。それを聞いたとき、ルンにとってこの場所は、僕が帰ってきていい場所なんだって思って凄く嬉しかった」


顔を上げれば、トーマが言葉通り嬉しそうに笑っている。けれどその瞳の奥には、隠しきれない寂しさも滲んでいた。


「でも僕は……行かなくちゃいけない」


自分に言い聞かせるようにして、トーマは抱きしめる腕の力を弱める。

ルウンもそれに合わせて上体を起こすと、真っ直ぐにトーマと視線を合わせた。


「ただの旅人なら、ここで旅を終わりにしても良かったんだけど。僕は……旅の物書きだから」


だからまだ、終わらせられないのだとトーマは言った。


「まだまだ行きたい場所があって、見たいものがあって、書きたいものがあるんだ。だから、僕は行くよ」


ルウンは、寂しい気持ちを押し込めてコクっと頷く。
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