銀色の月は太陽の隣で笑う
邪魔をしてはいけないと思うと、自然と忍び寄るような形になって、少女は昨夜と同じように後ろからトーマの手元を覗き込んだ。
相変わらず、紙の上では盛大にミミズがのたくっている。
風が吹いて枝葉が揺れると、少女の髪もふわりと舞い上がる。
その拍子に肩から零れ落ちたひと房が、トーマの手元に落ちた。
驚いたように振り返ったトーマは、昨夜と同じように自分の手元を覗き込んでいる少女の姿に、可笑しそうに笑った。
「やあ、おはよう。いや……こんにちは、かな。今日もいい天気だね」
おはようか、こんにちはか、それとも天気のことに返事をするべきか、悩んだ末に少女はひとまずコクリと頷いてみせる。
「凄くいいものが書けそうなんだ。こんなに筆が進むのは久しぶりだよ」
嬉しそうににっこり笑ったトーマに、少女は返す言葉を探して黙り込む。
考えた末に、結局何も浮かばなかった少女は、黙ってテーブルの方を指差した。
指し示された先を追いかけたトーマの目に、二人分のカップとバスケット、それから一心に何かを啄んでいる鳥達の姿が見える。