銀色の月は太陽の隣で笑う

その姿を見送るように視線を上げた少女は、その途中でトーマとバッチリ目があった。


「キミはまるで、この森に住む妖精みたいだね」

「……?」


少女がコテっと首を傾げると、トーマはカップを置いてから、何気なく自分の隣に手を伸ばす。

伸ばした手が何もない空を掴んだことに驚いて視線を向けると、ハッとしたように振り返った。

さっきまで自分がいたところに、ポツンとバッグが置き去りにされているのを見ると、トーマはホッとした顔で立ち上がる。


「どこにやったかと思って焦っちゃったよ。これには、僕の大事な商売道具が入っているからね」


バッグを抱えて、安心したように笑いながら戻ってきたトーマが腰を下ろすと、ふわりと日向の匂いがした。


「実はね、キミがこの森に住む妖精だったらって考えた話があって」


トーマは、荷物から取り出したノートをパラパラと捲っていく。


「あと他には、とっくの昔に潰えたはずの魔女の末裔とか。とある国から亡命してきた王女様とか」


楽しげに語るトーマの声を聞きながら、少女はお茶を飲む。


「どれもこれもいいお話は書けそうなんだけど、いまいちピンと来ないんだよね。なんだろう……なにかが違うっていうか、これじゃないって感じがして」
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