銀色の月は太陽の隣で笑う
そうして空気が和んだところで、トーマは思い出したように空を見上げる。
どんより曇った空の色は、ますます雨の気配を濃厚に感じさせるものに変わっていた。
おかげで、昼前にもかかわらず既に辺りは薄暗い。
「あのさ、ルン。ちょっと、頼みたい事があるんだけど……」
おずおずと切り出したトーマに、ルウンが小首を傾げる。
「良かったら、屋根があるところ……貸してくれないかな?」
トーマは、空を指差して苦笑する。
「荷物を濡らすわけにはいかないし。なにより、いくら僕でも雨の中で寝るのはちょっと遠慮したいから」
トーマが指差す先を追いかけるように顔を上げて、今にも一雨きそうな空模様を確認したルウンは、視線を下げると同時に頷いた。
「良かった……。ありがとう、助かるよ」
ふるふると首を横に振ったルウンは、「お礼、だから……」と小さく呟いて歩き出す。
「今、なにか言った?」
後ろから聞こえたトーマの声に、振り返ったルウンは首を横に振る。
トーマもそれ以上は追求せず、ルウンの後を追うようにして歩き出した。
湿り気を帯びたまとわりつくような風が、二人の間を吹き抜けていく。
その風に雨の匂いを感じたトーマが顔を上げると、その鼻先にぽとりと水滴が落ちてきた。
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