銀色の月は太陽の隣で笑う
「僕は、トーマ。しがない旅の物書きでね、色んなところを旅して回りながら、お話を書いているんだ」
少女は、トーマが手にしている古びたノートと、こちらも年代物の万年筆に視線を落とし、次いで着古した旅装と使い込まれたバッグを順番に眺めてから顔を上げた。
“旅の物書き”という初めて聞く響きが、新鮮に少女の耳を打つ。
「今は新しい物語を探しながら、特にあてもなく西方をめぐり歩いている途中なんだ。昨日まではこの森を抜けた先にある村とか、その更に向こうにある町をぶらついていたんだけど、なんだか妙に好奇心をそそられる森を見つけてね。物書きの端くれとしては、いてもたってもいられなくなっちゃって。それで実際に来てみたら、キミと出会ったというわけなんだ。ビックリさせちゃって本当にごめんね」
大きな身振りや手振りを交えて一通り状況を説明したあと、トーマは座った姿勢から地面に頭がつきそうな程深々と頭を下げる。
「ところで、キミのその髪はとても不思議な色をしているね。昼間チラッと見た時も思ったけど、近くで見ると凄く綺麗な白……いや、銀かな」
すぐさま顔を上げたトーマが、興味深そうに少女の髪の毛を見つめる。