It's so hopeless
「歌…歌………」
私の前でロイは自らの心に語り掛けるように繰り返す。
何度も何度も…。
私は何も言わずにロイを見守った。
風に吹かれて薔薇が優雅に揺れる。
白と赤のコントラスト。
遥か地平線の彼方に見る太陽は茜色。空は夕焼けのグラデーション。
昼間とはまた違った世界。
夜の闇の訪れを微かに匂わせて…。
ふいにロイが顔を上げた。キョロキョロと辺りを見渡すように見回すと、私のいる方向を向く。
「…ソラ。もうすぐ夜が――」
ロイのいつもの台詞。
包帯でしっかりと視界を遮られているロイは、どうして夜の気配を感じ取ることができるのだろうか。
「ソラ…今日はもう――」
“さよなら”
次にくる台詞は言わずともわかる。
ロイには悪いが今日の私に帰るつもりは更々ない。
私はすっと鳥籠の柵の隙間から、ロイの頬に触れた。
見えない相手からの見えない行動。
驚いて動きと言葉を止めたロイ。
微かに白い頬に紅色が浮かぶ。
「ソラ…?
い、一体何して――」
ロイは動けずに私を包帯の奥の瞳で見つめた。
私は小さく笑うと、ゆっくりとロイの頬から手を引いた。
「―――今日は私、帰らないよ。鳥籠の鍵の手掛かりを見つけるまで帰らない」
私の言葉は、茜空の下清々しく響き渡った。