It's so hopeless
暫くして、螺旋階段の上の方で足音が聞こえた。
奴が来た。
「ソラか?」
ぱたぱたと階段を下ってくる人物。
私の姿を確認した途端、気持ち悪いくらいの笑顔を浮かべ、掛け降りてきた。
「ソラ、こんな朝早くにどうしたんだ?
まぁ、一先ず紅茶でもいれるから上がりな」
にこやかな笑顔を崩さないこの男が時計塔の主、ゼロ。
室内だというのに、黒いハットを被り、紅い瞳を爛々と輝かせている。
寝癖で軽く外はねな銀髪は長すぎず短かすぎず。
赤いワイシャツに黒いベスト。奇抜で個性的な服装。
顔は整っているがかなりの変り者。
「今日はソラが俺に会いに来てくれて嬉しいよ。
俺の誕生日覚えてくれてたんだな」
鼻歌を歌いながらご機嫌なゼロは私の手を引き、彼の部屋へと導く。
薔薇のような香りがする。
ゼロの誕生日…。
申し訳ないがすっかりわすれていた。
「…あ、ゼロ今日誕生日なんだっけ?」
思いもよらない私の言葉にゼロはさも残念そうに肩を落とした。
「そんなぁ…。ソラも俺の誕生日を覚えてなかったなんて……。
じゃあ今覚えて。
今日は俺の七百三歳の誕生日だから」
私は苦笑いしながら頷いた。
そう、ゼロは見た目は青年だが何百年も生きている超ご長寿。
身も心も人間のようだが、ゼロは“時の悪魔”。
不老不死の身で世界が生まれた時からずっと、この“悠久の時計塔”にいる。
長寿故に物知り。
だから鳥籠の鍵のことも知っているかもしれないと、私は此処を訪ねた。