It's so hopeless
「うん、そうだけど………ってやばいっ。
すっかり忘れてた。ロイ待ってるのに…」
私は道端に放り投がっていた籠を拾い、その傍らに同じように落ちていたクッキーの袋を籠に入れた。
そうしてテトラを見やる。テトラは不安気に私を見つめていた。
いつも憎まれ口を聞いているこの小ギツネ、こんな時やけに可愛く見える。
ここで可愛いなどと言うと、テトラはまたキィキィと怒るだろう。
「行ってくるね」
私の言葉にテトラは鼻を擦った。
「――気を付けて行ってこいよ。
また遊ぼうな」
精一杯前足を天に掲げ、私に手を振るテトラに私の表情は緩んだ。
「おう、じゃあねっ」
私はテトラに背を向け、再び駆け出した。
風をきって森を駆け抜けるこの感覚…。
セピア色に染まる世界で私だけが己の色を主張する。
待っててね、ロイ…。
もう少しで着くから。
手にぶら下げる籠の中のクッキー。
転倒により少し割れてしまったが、十分食べれる大きさだ。
ココア味とバター味。
クッキーは私が作るお菓子の中で、ロイが一番好きだと言ってくれたもの…。
早く会いたいから、足が止まらない。
このままあと一走り。
光。
場面が切り替わる瞬間。
セピア色の森から白い箱庭へ。
光に包まれながら私は、君の笑顔を思い浮かべた。