It's so hopeless
「ほら、今日はクッキー持ってきたんだ。食べてみてよ。
転んだとき少し割れちゃったけど…」
ロイの表情がぱっと明るくなる。
包帯に隠れた両目もきっと光を帯びているだろう。
鳥籠の柵からクッキーの袋をロイに手渡す。
ロイは両目を覆っている包帯をものともせず、器用にクッキーの包装を解いていく。
辺りに広がるクッキーの甘い匂い。
ロイが手に取った茶色いクッキー…ココア味だ。
少し欠けてしまったせいで、折角ホワイトチョコで描いたハートがよくわからない。
目の見えない状態のロイは私の小さな細工に気付くことなく、クッキーを口に運んだ。
「あぁ……やっぱりソラの作るお菓子は美味しいよ。
いつもいつもありがとう」
そう言ってロイは嬉しそうに笑う。
ロイの言葉は耳に心地よくて好きだ。
低すぎず、若干擦れた男の声。
私の中では川のせせらぎや、小鳥の歌声にも勝る優しい旋律。
いつまでも聞いていたい。
私はいつも、不思議なロイの声に酔わされる。
否、声だけじゃない。
私はロイの全てに曳かれている。
包帯だらけ、傷だらけの心を持つ少年。
純白の髪を光を集めてキラキラと煌めかせ、鳥籠という彼だけの牢獄の中で一人外の世界の夢を見ている。