It's so hopeless



駆け寄った鳥籠はいつもよりどこか大きく、まるで私をロイに近付けたくないかのように見える。


隔たり、障害。





「ソラ」



ふとロイが私の名を呼んだ。

ピアノの旋律のような柔らかく繊細な響きが、この白い箱庭を包む。




「ロイ、何?」



私はロイの言葉を待った。




「……」

なかなか次の言葉を言わないロイ。


唇が微かに震え、細く白い自身の身体を抱き締め小さくなっている。




私は、そんなロイを黙って見守った。



急かさないよ。
いくらでも待つから、大丈夫。




ロイが落ち着くまで私たちの間に言葉はなかった。


静寂。

流れるは悠久の時間だけ。





どれだけこうしていただろう…。



やがてロイが恐る恐る口を開いた。




「――実は、ソラが来ない間に此処に誰かが来たんだ…」



「―――え?」






閉ざされた君の世界にいたのは私だけ。


君と私。


二人きりの世界。
他の“誰か”なんて必要ないの。






「――どんな人が来た?」

なんとも言えない気持ちを抱えたまま、私はロイに尋ねる。




この震える心は何だろう。
不完全な私の心が揺れる。





「――わからない。
わからないんだ…。


ただ恐ろしくて、冷たくて……まるで闇のような、人。


そいつは僕を“哀れな籠の鳥”だって呼んだんだ…」



震えるロイの声。


まるで私の心のようだ。




――二人きりの世界に闇が訪れる。



届きかけていた光が遠くなる。


遠く、遠く。



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