溺愛なんて聞いてない!


「ご、ごめん!帰るね!!!」


かろうじてそれだけ声に出すと、鞄を手に取り、腰をあげる。

おいっ!って呼び止める声すらも頭に入ってこなかったのに、大きな声で私を呼ぶ声に弾けるように顔をあげた。


「一花せんぱーい!あれ?帰るんですか??」


お願いっっ!名前を呼ばないで!!!


「聞いて下さいよー。あれ?聞こえてます?いーちーかーせんぱーーーい」


ひぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!


すでに末席まで戻ってきていた茉奈ちゃんに慌てて詰めよって、シーーーーーー!!!!っと茉奈ちゃんの口を手で塞ぐ。


「ま、ままままま茉奈ちゃん。名前を呼ばないで!ごめんね、今日は帰るから!」


反射的に視線を上座に向けて、聞かれていないか確認をとってしまう。

見渡してみても煌の姿は見当たらなくて。
茉奈ちゃんの言葉は届いていなかったんだと安堵する。


茉奈ちゃんから手を離し、しーーーーー!としてから「ごめんね、今日は帰るね」と必死の顔で懇願した。


それなのに、「駄目ですよ、今から営業部長の締めです」とすげなく返された。



えっ?もうそんな時間!?


あーーーーそうだった。
我が営業部の宴会は営業部長の乾杯から始まって一本締めで終わるんだった。



そのまま二人のもとを離れ、見つかる前に帰りたかったのに。


回りを見渡せば立ち上がる営業部の面々。


そわそわしながらその場に立ち上がり、早く終われと祈りながら部長の声を聞いていた。


早くっ!!!



「「「よーーーーお、パンっっ!!」」」


と、いかにも昭和風な掛け声と共に手を打つと、あちこちから「お疲れさーん」と声が上がる。


よしっ!

「ごめん!!!帰るっっ!!!」



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