溺愛なんて聞いてない!
あれよあれよと引き摺られて、辿り着いた先は煌のマンションだった。
無言のままタクシーに乗せられて、抵抗する気も起きず着いてきた。
だって、逃げれるはずがないんだから。
初めて入った煌の部屋は、何処か懐かしい香りがして何度も通った昔の部屋を思い出させる。
一瞬の既視感。
10年経とうが忘れられる筈もない煌の匂い。
全てに諦めて、着替えに向かったであろう煌を横目にソファに寝そべった。
やっぱり、煌の匂い。
話し声がして、足音と共に出てきた煌と目が合うと、ポイと携帯を渡された。通話中なのか煌を呼ぶ声がする。
『煌!ちょっと、聞いてるの!?』
「雛ママ?」
通話口から聞こえてきたのは、聞き慣れたあの人の声で。
煌と離れた10年の間も煌の母親でもある雛子ママとは近況を伝えあっていた、筈なのに……。
「雛ママ!なんでここに煌がいるの!?聞いてない!!」
『一花ちゃん?』
「な・ん・で・教えてくれなかったの!」
『ごめんねー煌が言うなって言うから……一花ちゃん逃げるでしょ?』
「逃げるよ!ッ、イタ!!」
叫ぶと同時に叩かれた頭。
目を細めて片眉を上げた煌。
何よっ!!