溺愛なんて聞いてない!


あれよあれよと引き摺られて、辿り着いた先は煌のマンションだった。

無言のままタクシーに乗せられて、抵抗する気も起きず着いてきた。

だって、逃げれるはずがないんだから。



初めて入った煌の部屋は、何処か懐かしい香りがして何度も通った昔の部屋を思い出させる。

一瞬の既視感。

10年経とうが忘れられる筈もない煌の匂い。

全てに諦めて、着替えに向かったであろう煌を横目にソファに寝そべった。


やっぱり、煌の匂い。


話し声がして、足音と共に出てきた煌と目が合うと、ポイと携帯を渡された。通話中なのか煌を呼ぶ声がする。

『煌!ちょっと、聞いてるの!?』

「雛ママ?」

通話口から聞こえてきたのは、聞き慣れたあの人の声で。
煌と離れた10年の間も煌の母親でもある雛子ママとは近況を伝えあっていた、筈なのに……。

「雛ママ!なんでここに煌がいるの!?聞いてない!!」

『一花ちゃん?』

「な・ん・で・教えてくれなかったの!」

『ごめんねー煌が言うなって言うから……一花ちゃん逃げるでしょ?』

「逃げるよ!ッ、イタ!!」

叫ぶと同時に叩かれた頭。
目を細めて片眉を上げた煌。

何よっ!!

< 16 / 70 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop