溺愛なんて聞いてない!
いただきます、と手を合わせて食事を始める。
一見同棲カップルや新婚夫婦のようだが実際は家政婦と雇い主だ。
「明日、夕飯いらねぇや。接待入った」
「ふーん。了解。何処行くの?」
「清水屋」
「えーいいなーあそこさお魚が美味しいって営業さんが言ってたんだよね」
「へぇ、」
「お昼は?」
「昼は要る」
「はいよー」
普通の会話。
そういえば私達はいつもこんな感じだった。
10年ぶりの再会といえど、倦怠期の夫婦のような空気は何の新鮮味も無ければ甘い雰囲気を作ろうとする気も起きない。
起きるわけがない。
だって、私と煌だ。
今まで煌に会わなかった10年間で思い出していたのは蔑まれた台詞ばかりだったから、このまったりとした生活に拍子抜けした事はホッとした事実だ。
私達だってずっといがみ合っていた訳じゃない。
私はずっと煌が好きだったんだから。
ただ、何処かに煌の機嫌を損ねるスイッチがあって、その度に煌から辛辣な台詞を浴びてきた。
私を否定して、寄せ付けることをしない言葉の数々。
家政婦以上なれないと、何度突きつけられたことか。
それが煌に会うのが怖かった理由だ。
私は今度は堪えられるのだろうか。