溺愛なんて聞いてない!

「でもさ、足りる?」

「足んない」

「だよね、これ食べなよ」


男の人がメインに食べる日替りはワンコインといえど品数が多い。
今日は味噌汁の代わりに小うどんが付いていて、私には多すぎる。
まぁ食べられないわけではないが。

小うどんを差し出すと、サンキュと受けとる佐々木。

気を使わないこの空気感が楽だ。


「そういえばさ、王子が弁当持参らしいぞ」

「ブッッッッ!」

「同棲でもしてんじゃねぇかってすげぇ噂。……大丈夫か?」

「……平気」



相変わらず噂の的になるのが早いな……。



「ここ、いいかな?」

「はい、どう………………ぞ?」


そう顔を向けると隣に座る煌が居た。

うぉ、と声に出さなかった私を誉めてあげたい。
なるだけ会社では煌に近付かないようにしているのに、なんでここに座るんだよ!なんて恨めしい視線を送って、大人のマナーで「お疲れさまです」と声だけ付け足しておいた。


「うん、お疲れさまです」

淡々とマイペースに手に持っていた弁当の包みは朝私が手渡した確かにそれで。
緊張の動悸がバクバク響く。

なんでここで食べるのよ!

心の中で突っ込んで、声に出せずに笑顔で対応。

過去のあれこれで、煌には同居のルールの1つに私との関係を完全黙秘で約束させた。
学生時代散々された、後輩から同級、先輩までにも及ぶキツい当たりはもう勘弁してほしいんだ。

煌と一緒にいるという事実はそれだけで私を孤立させる。



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