溺愛なんて聞いてない!
うわー初めて飲んだけど梅酒って美味しいかも。
「ね、ね、佐々木!これ美味しい!」
「へぇ、良かったじゃん」
「えへへー甘すぎるかと思ったけど平気みたい」
「っ、」
甘くてもお酒だからジュースみたいにゴクゴク飲むことは出来ないけれど、少しずつゆっくりと口に含んで飲み進めた。
気付けば既にコップの半分を飲み干していて、頬に少しの熱が籠る。
あれ。
熱くなってきたかも。
秋も本格的になってはきたけどまだ暖かい昼間と違って夜は冷える。
それなのに体の芯がポカポカしてきて、何となく羽織っていたカーディガンを脱いでみた。
下に着ていたのは五分袖の白のシフォンブラウスで。
キッチリかっちりな首もとが好きでいつも綺麗に留めていたボタンも2個外した。
緩まった首もとに手を扇いで風を送る。
「なんか、熱い」
「っ、……大丈夫か?」
「え?えへへ。熱くない?」
そう言ってもう1つボタンを外そうと手をかけるとパコンっ!と頭を叩かれた。
「いたっ、」
「ばかなの?」
そこには息を弾ませた煌が居た。
「煌!」
「ねぇ、本当バカなんだから」
「えへへ。煌!おかえりー」
はぁはぁと整わない息をしたまま不機嫌な顔を隠しもせず私を睨み付ける煌に対して、私は怒っていた筈なのに怒られるかもって怖がってた筈なのに、煌を見ても怖さなんて微塵もなくて、素直に感情を表に出していられたあの頃のように思わず笑顔になってしまっていた。
反対に煌はそのまま私のとなりに腰を下ろし、ため息をひとつ。
眉間のシワが更に深くなる。
「煌、」
だけど、今は何も考えられなくて。
何度も名前を呼んでそこに煌がいるのかを確認した。
「ふふっ、煌だ」
「っ!…………チッ、飲むなって言ったのに」
本当バカ、そう煌が呟いてたような気がしたけど、くしゃりと撫でられた頭のぬくもりとそのまま引き寄せるように頭にある手に力が込められた。
ぶつかった先は煌の右肩で。
そのまま肩を抱かれて凭れるように寄りかかる。
覚えているのはそこまでだった。
呆れたようにでも安心したように私を抱く煌に、忌々しそうに煌を睨み付ける佐々木が居たことを、私は知らない。