溺愛なんて聞いてない!
「おーい、二ノ宮ー何してんのー?」
エコバックを肩にかけて家までを歩いていた背中から声がかかり、私は振り返って立ち止まった。
わらわらと集まる同級生が3人。
珍しそうに私の手元を覗き込んで「なんだこれ?」「おつかい?」「うわっ、ネギだ。臭ぇ」好き勝手言い始めた。
「うん、夜ご飯で使うものと薬味用のネギに後ジャガイモが安かったから」
お手伝いの域を超えているアピール。
自分は家のご飯を任されているんだと。
主婦を気取って大人が口にする“薬味”なんて台詞まで飛び出して、得意気に胸を張る。
それなのに、彼らの口からでた台詞は一気に私を羞恥に追いやった。
「は?薬味?」
「そう、ネギとかごまとか生姜とか。素麺のつゆに混ぜるのよ」
「げぇ、不味そう」
「まぁ大人用よね」
「なんかお前、婆くせぇな」
「っ、!?」
「あー分かる。ネギもってな、」
「そうそう、なんだっけ◯ザエさん?ネギ持ってさ猫追いかけんの」
「バーカ、ネギなんか持ってねぇだろあれー」
「イメージだって、イメージ。ネギ持ってるなんておばちゃんみたいじゃん」
うひゃひゃひゃひゃ。
「じゃーなー。二ノ宮おばちゃん」
「またなー。ネギおばちゃん」
「猫追いかけろよー」
うひゃひゃひゃひゃ。
今思えばガキのボキャブラリーの無さに失笑してやれるが、まだ9才の少女の心に“おばちゃん”と呼ばれた恥ずかしさは深い傷を作った。
途中から言葉をなくして呆然としている私に気付くこともなく言いたい放題で彼らは帰っていった。
私のイメージはキャリアウーマンのような出来る大人の女性だった。
いや、キャリアウーマンって言うだけで出来る女風なイメージがあっただけだ。
だけど、彼らからはその先にある所帯染みたおばちゃんだと決めつけられた。
恥ずかしいっ!
顔を真っ赤にして目尻に涙を溜めて、暫く立ち尽くしていた私を見つけたのは……煌だった。