溺愛なんて聞いてない!

「一花?」

すでに一花ちゃんではなく、一花、と呼ばれていた私。
そして、私も煌ちゃんではなく煌、と呼ぶようになっていた。

「一花?どうした?」
「…………煌」
「……何があった。泣いてる」
「…………ね、私っておばちゃんみたい?」
「何だって?」
「違うもん…」

煌の言葉も待たずに落ちていく気持ち。
だけど、肯定も否定もせずに煌はお腹がすいて不機嫌になっていく。

自分の落ちた気持ちよりも何よりも私は煌の不機嫌さにハッとした。
やばい、怒られる。
その頃既に、煌の動向に左右され慣れていた私にはその後に続く煌の冷たい一言の方が怖かった。


「ご、ごめんっ!なんでもないっ!」
「…………はぁ。本当バカ」

そう言いながら頭をぐちゃぐちゃにしていく煌。
止めてよ、なんて言いながらも嬉しかったその仕草。


「ね、ジャガイモ買ってきたの。じゃがバターする?」


煌の機嫌を取ろうと話を変えた。



「あ?コロッケの気分」
「またハードル高いとこくるね。コロッケするほど買ってきてないよ」
「使えねーな」


そう言いながら私の手からエコバックを奪い取った。「こんだけかよ」なんてジャガイモを確認しながら悪態をつくがそのエコバックが私の手元に戻ってくることはなかった。

さりげない優しさがまだ分かる頃だった。


だけど、事件は次の日に起こる。

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