溺愛なんて聞いてない!

いつかのあの日のように夕飯のお買い物に来ていた私の手にあるエコバックにはネギが入っていて、荷物を持たなきゃいけないからと日傘なんてさせないかわりに麦わら帽子を深く被る。

ボーダーの半袖Tシャツにダボッとはいたジーパン姿の私。
なんて楽チンな女子力の欠片もない格好。


反対に今私の視線の先には、にこやかな笑顔を浮かべて綺麗なお姉様の腕を絡めて颯爽と歩く美男美女のカップル。
白いTシャツに爽やかな水色のシャツを羽織って細身の紺のパンツを履いた、煌がいた。

あ、あのシャツ昨日アイロンかけたやつだ。


出掛けてからかなりの時間がたっている筈なのに、煌が歩くそのすぐ先は最寄り駅方面。
今からお出掛け?

じゃあ今までどこにいたの?

人に雑用をさせて、自分はデート?



一気に奈落の底に落とされたような感覚で足元が崩れ落ちそうだった。

それをなんとか踏ん張って、自宅へ戻る。

エコバッグをダイニングのテーブルへ置き袋から飛び出たネギを見て、改めて何をしているんだろうと今の現実を、煌との差をやっと自覚する。


何やってんだろう。
私、何がしたいんだろう。


18歳なんて青春真っ盛りな筈じゃない!
なのに毎日、毎日炊事洗濯煌の世話。

かたや煌は、面倒臭い事は全部私に押し付けて可愛い女の子と青春を謳歌している。


煌のお世話を喜んでやっていたのは私。
煌の特別だと勝手に勘違いしてやり過ぎたのも私。

分かってるつもりで、分かったなかったのは………………私なんだよ。


心のどっかで煌の特別だと、
煌の気持ちは私にあると、思い込んでただけなんだ。


だけど、可愛い女の子があんなにいつも周りにいて私を見るわけないじゃない。

煌にとって私は家族と同じで、家政婦にしか思われてないのに。



………………………………。




そうだ。
煌から離れよう。




こんなとき、煌に鍛えられた極太なメンタルを初めて良かったと思えた。

可愛く甘えたりなんか出来ないけれど、きっと私はどんなことがあっても生きていける気はする。
うん。



煌のために自分の一生を棒に振るわけにはいかないさ!

煌の側にいて泣きたくなるような毎日を過ごすより、私は心の平穏をとるんだから!



そう思ってからの行動は早かった。





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