桜の下で
俺はポケットから小さな白い箱を出す。

直也はその小さな箱を私の前で開ける。

「まだ指輪は渡せないから凄く悩んだ…どうしてもステージの上で…ピアノの前で伝えたかった。」

「ど…どういう事…?」

直也は笑顔で私に問いかける。

菜穂は涙目で俺の言葉を聞いている。

「俺と付き合って下さい。」

会場はわっと騒がしくなる。

そんな声は私達には聞こえない。

私は嬉しさで涙が溢れた。

これは現実なの?って思うぐらい凄い世界だと思う。

「本…当に…言っ…てる…の?」

「冗談な訳ないよ。俺は本気。このネックレス…受け取ってくれる?」

菜穂は泣きながら言う。

「受け…取らな…い…訳…無いよ!」

菜穂はネックレスの白い箱を受け取って俺に笑顔を見せてくれた

「俺がつけてるのとお揃い。菜穂似合うと思って。」

「うん…!凄く…うれ…しい!」

「もう泣き止んで?これからだよ。」

「え?」

さっきの司会者さんが家にあったはずのヴァイオリンを持って歩いてきた。

「菜穂のお母さんに頼んで渡してもらった。これで演奏するよ。」

「何の…曲を?」

「今から言うから聞いてて。」

そう言って直也はマイク越しに話し出す。

「突然ですが今からこの人。天宮菜穂と演奏します。これからやる曲は僕達二人の思い出の曲。そして父さんが作った曲を演奏します。」

「え?でもそんな曲やってないよ…?」

菜穂にこの前渡した楽譜と同じものを渡す。

「これって…」

「そう。俺が作ったって言った曲。元は父さんが作った曲で勝手に改造させてもらったの。これから弾いてもらうよ?おぼえてるでしょ?」

菜穂は笑顔で「うん!」と言ってヴァイオリンを持った

「一曲目はラフマニノフピアノ協奏曲第2番。」

そういってピアノ椅子に座る。

私もヴァイオリンを持って弾く準備をする。

いつものヴァイオリンで…直也と一緒に。
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