あたしとお義兄さん
7.友達の中身は選べない
 7.



「静馬よう、お前さーなんでそんなに『義妹』『義妹』なの?」

 問われて、え?、と振り向く静馬の前にはシム・シメールの絵画がずらりと並んでいる。
 わずかな暇を見繕い、連れ出された親友の早瀬一也は、タバコの火を画廊の備え付け灰皿に落とす。

 あれでもない、これでもないとあれだけ絵を出させている静馬は親友の問い掛けに微笑んだ。

「ああ、クリスマスプレゼントですよ。リンはラッセンよりシメールが好きなんです」

 柔らかい茶髪に長身の一也は見た目静馬と並んでも見劣りしない美丈夫だ。
 柔らかいが真面目な印象の静馬に比べて、こちらはヤンチャな印象が隠しきれていなかったが。
 細身の、それでも無駄のない身体を来客用のソファーに投げ出して、どこか違う世界のお花畑に逝ってしまった親友を生温い目で見ている。

 チラリと絵画の方にその目を移して、それらの値段をチェックする。
 いずれも正規の値段で五、六十万を軽く越す代物だ。

「おりゃあ、過去の彼女達の誕生日だって、そんな高いもんをお前が贈ってんの見た事無いけどな」
「リンは『目覚め』を持ってるんですよねぇ…と、いう事はこの系統ですかね。月も好きだと言っていたし─────これなんかどう思います?一也」



 聞いちゃいねぇ。



 一也は問答無用で微笑む静馬に頭突きを食らわせた。

「聞けよ、人の話」
「────────貴方もいい加減、そういう止め方やめて下さいよ」

 結局、新作を一つ買い求めると、二人は連れ立って画廊のそばにあるレストランのウェイティングバーに入っていった。

 軽い飲み物を二つ頼むと、静馬はコブになったであろう前頭部をそっと摩っている。



「─────────で?」

 一也はさっきの答えを促した。
 景気が超低迷期にあった頃、それを逆手にとって静馬は親に資金を借り受け、潰れかけた幾つもの会社の立て直した後、今は『情報』を主に扱っている。
 この、一見育ちと人の良さそうに見える美青年は自らの持つ多大なコネクションをバックに、今や幾つもの大会社の顧問として莫大な収益を得ていた。

 それと同じく腕利きの医者にはとても見えない一也だけは知っていた。
 この青年を額面通りに受け取っていたら、とんでもない間違いを冒してしまう。

 ところが、だ。
 今回だけは事情が違うらしい。
 一也はここまでなりふり構わぬ友人を初めて見た。
 しかもそれが平凡で丸い、小毬系の義理の妹が対象ときた。

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