あたしとお義兄さん
8.お前はご家庭の認識を改めろ!




 若くも無い。
 どう差し引いて考えても、この男が惹かれよう要素があるとは思えない。

「お前がそんなに人に執着したのなんて初めてだろう?」

 いつもよりは幾分ラフなスーツの美青年は、親友の問いかけに煙草を取り出す。


「─────────『妹』ってね、可愛いんですよ」

 軽めのそれに火を点けると、深く吸い込んだ。

「無条件に愛することができるじゃないですか。それに個人的に私はあの女性が気に入っているんです。
 とっても素直でまっすぐでお人好しで…自分を飾るなんて、しない」

 グラスの氷をカラカラと鳴らして、それをじっと見入っている。

「私のように性格の捻じくれた義兄に、それでも突き放しもしないで、渋々といった体で付き合ってくれる。掛け値なしの本音で」

 茶髪の友人の姿は見えていないのかもしれない。
 静馬はその思いを口に出す事によって、初めて自分の中で整理しているのかもしれなかった。

「溺れている、って分かっています。でも、私も疲れているのかもしれない。自分の乾いた性格や周りからの見た目の評価やらに…今までだって貴方がいなかったら、私はもっと悪い方向へ突っ走っていたかもしれませんねぇ」

 珍しく吐き出された本音に一也はポン、と静馬の頭に手を乗せ、黙ってグリグリ搔き回した。
 静馬はさっきのコブが痛かったが、あえて我慢して苦笑した。

「お前の弱みになるかもしれないぞ?」
「はあ。まあ、そうかもしれません」

 冷えたキールを飲み干しての一也の言葉に、静馬は素直に頷いた。

「でも、柔らかくって暖かい、あの女性が愛しくて堪らないんです。抱きしめると真っ赤になって、真っ赤になって私をぽかぽか叩くんですよ」



 嬉しそうに微笑む親友に、一也は固まった。



「どうしたんです?一也」

 不思議そうに尋ねる声にドン、とグラスをカウンターに置いた。


「抱きしめて、だと?」
「ええ」

 当たり前の事の様に、横に居る長身の美青年がそれを認める。

 一也は信じられないモノを見る目つきで静馬を見た。


「お前はその女を本当の妹のように想ってんだよな?」
「はい」
「普通、兄は妹をそう頻繁に抱きしめたりしないよな?」
「え?」

 詰め寄る一也に思いがけない指摘され、静馬が目に見えて動揺した。

「そ、そんな……いえ、でも、家族内のスキンシップなんか──────」
「にでも、日本のご家庭にそんなしきたりはねえ」

 静馬の言葉を引き継いで、一也は断言した。

 すると、見る間に傍目で見ても気の毒なくらいに悄然とし、静馬は肩を落とした。
 誰もが即座に慰めてやりたくなる程の落ち込み様だ。
 気まずい空気が二人の間に流れ、一也は頭の後ろを無言で掻いた。


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