太陽のさとうさん
彼が机を使っているから、レポートを書くのは家に帰ってからしよう。
あっ、そういえば、飲み物も買ってくればよかったなあ。
風で揺れる藤を見つめながらフワフワと考えていた。
ちらっと、少し距離をとって座る彼を盗み見る。
あまり見えなかった顔が、陽が差し始めたおかげでとても良く見える。
彼の顔に、異様な既視感を覚えた。
ううん、顔だけじゃない。
この雰囲気にもだ。
地元から離れているここで、知り合いと会うわけもないし、
そもそも知り合いなら会ったときに気付くはず。
ぐるぐるぐるぐる記憶を遡っても、彼の思い出は何も出てこない。
盗み見ていたものが、いつの間にかガン見に変わっていたらしい。
私の視線と彼の視線が空中でパチッと重なった。
「あっ、えっと…」
私は、思わず目をそらしてしまった。
「すみません。これ聞いてもらえますか」
変に気まずく思う私とは裏腹に、
彼は落ち着いてそう言った。
先程まで何か作業をしていたパソコンをぐいっと私の目の前に出すと、よく見る再生ボタンを押した。