この夏が終わっても
「……あの。
良かったら、これ…使って下さい。」
私は男性に近付いて、持っていた自分のハンカチを差し出した。
黒縁の眼鏡に黒髪の男性。
ヤンチャそうな見た目の将ちゃんとは違って、大人しそうな穏やかな雰囲気。
「え?……あ。いいよ、すぐに乾くし。可愛いハンカチが勿体無いよ。」
「駄目です。早く拭かないと、素敵な服にシミが残っちゃいますよ?」
男性の優しい雰囲気に、人見知りの私も信じられないくらい自然に、普通に接していた。
「これ、百均で買った物なんで気にしないで使って下さい。」
手の平を振って断る男性の手にハンカチを強引に渡して微笑むと、男性は頷いて微笑み返してくれる。
「…ありがとう。優しいね。」
「いえ、優しいのは貴方の方だと思います!
…じゃあ。」
私は軽く会釈をして男性の横を通り過ぎると、将ちゃんの待つ部屋に早足で戻った。
……。
その私の後ろ姿を男性が暫く見ていた事。
私は、この時気付いていなかった。