この夏が終わっても
……
………。
「しょ、将ちゃん…!
将ちゃんっ…どうしたの?なにか、怒ってるのっ…?」
海岸沿いの夜の道路を、俺は里奈の手を引きながらひたすら早足で歩く。
里奈が呼び掛けてくるけど聞く耳を持たず、民宿が見えなくなる位置まで来ると手を放して振り返った。
「しょ、将ちゃん…?」
「涼にキスされて嬉しかった?」
引き攣った笑みを浮かべながら尋ねると、俺に掴まれていた手首を摩っていた里奈が…。目を見開いて小さく「え?」と、声を漏らす。
「…な、なに…言ってるの?
え?…え?……将ちゃんっ…?」
震えながら首を横に振る里奈。
微妙にあった距離を縮めて俺の服を掴むと、慌てて弁解を始めた。
「涼さんとはっ…なんにも、ないよっ?
お礼に、っ…ハンカチもらっただけだもん…ッ。それだけっ…だよっ?」
お礼。ハンカチをもらった。
さっきだけじゃなく、二人だけしか知らない確かな時間があったのだと…。確信した。