にゃんとも失せ物捜査課です
 男の子に「家に帰えれよ。」と念押しして猫を消すおばさんを探そうと歩き出す。

 しかし上着の裾が引っ張られ、足を止めることになった。
 斜め後ろを見れば美雨が無言で裾をつかんでいる。

「なんだよ。まだ腹でも減ってるのか?
 もうおやつの時間はお終いだぞ。」

 こっちのガキとはおさらばできないのかと、ガッカリした気持ちがそのまま言葉に表れてしまう。

 馬鹿にした言葉を浴びせる犬飼を尻目に上着の裾から手を離した美雨が逆方向に歩いていく男の子の後を追って歩き始めた。

 見つからないように隠れながら。

 その様子がさまになっていて、まさに野生児。…いや探偵か、さながら刑事だ。

 さながらというよりも、本物の刑事なのだが。

 後をつけていくと狭い路地の隅に男の子はかがんだ。
 そして何かをランドセルから出す。

 遠くてよく確認できない上に全てが喧騒に紛れてしまう。
 近づいて事情を聞こうと体を動かした犬飼の体がまた服をつかまれ静止されられた。

 そのままグイッと引っ張られ路地の外へと促された。

「んっだよ。今度はなんなんだ。」

 さきほどの公園の前まで出ると解放され、引っ張っていた美雨はその場に座り込んでしまった。
 何かを待つように座る美雨に犬飼は仕方なく付き合うことにした。

 あそこで声をかけるなと言いたいような気がして、従う義理はないのだが、こいつにも何か考えがあるのだろうと思ったのだ。

「あ…。さっきの…。」

 戻ってきた男の子がバツの悪そうな顔でズボンの端を握りしめ俯いた。

「一旦帰れよって言っただろ?」

 背中には未だランドセル。
 男の子が、もごもごと口を動かした。

「だって…。猫が…。」

 猫…。
 やはりかがんでいたのは猫に餌をやってたのか。

 何故、隠したりしたんだ。

 そう口から転がり落ちる前に男の子がガバッと顔を上げ、切実そうな声を出した。
 その目は真剣そのものだった。

「警察に見つかったら猫って連れて行かれちゃうでしょ?
 飼い主が見つからなかったら『サッ処分』ってやつで殺されちゃうんでしょ?」

 こいつ…。
 だから隠れながらなのか。

 何か言おうとする犬飼を美雨が静止すると引っ張られその場から離される。

「なんだよ。なんでだよ。」

 犬飼の言葉は虚しく宙を舞うばかりで、何も返事はなかった。
 そんな2人の様子を男の子は不安げに見つめていた。
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