にゃんとも失せ物捜査課です
 アパートに着き、ドアを開ける。

 すると信じられないという顔を向けられ、美雨は脱ぎ捨ててあった服を集め始めた。

 部屋は見事に散らかっていて、謙遜ではなく本当に汚かったのだ。

「だぁ!もう触るな!
 だから汚いって言ったろ。
 お前はいいから!俺がやる。」

 美雨から服を奪い取ると他のも集めて洗濯機に入れる。

 なんで帰ってからこんなことしなきゃいけないんだよ。

 先ほどよりはスッキリした部屋。
 身振りで掃除機を要求された。
 掃除機をかける美雨にますますのうんざりした視線を送る。

 もう好きにしてくれ。

 しばらくした後、気が済んだ美雨とともにコンビニで調達したご飯を広げた。

 相変わらず無言の美雨は口におにぎりを運ぶ仕草もままならず、食べ終わると電池が切れたようにコテッとその場で寝てしまった。

「やっぱり眠かったんじゃねーかよ。」

 床で寝ろと言ったとはいえ小さな寝姿を見ると、こんなところに放置しておけない。

 仕方なくベッドに運ぶことにした。

 抱きつかれた嫌な記憶が蘇り、恐る恐る抱きかかえると腕の中で小さな声がした。

 「おじいちゃん…。」

 ベッドにそっと下ろした美雨は薄っすらと涙を浮かべていた。

「ったく。喋れるんじゃねーかよ…。」

 頭をボリボリとかいて部屋を後にする。
 目に涙を浮かべ寂しそうな寝顔。
 それが頭から離れなかった。

 犬飼はアパートを出て電話をかけた。

「おい。じいさん。
 あいつじいさんに会いたそうだったぞ。」

 相手はもちろんじいさんだ。

「美雨ちゃんはどうした?」

 なんだ。やっぱり心配は心配なのか。
 じいさんの返答に僅かに安堵する。

「俺ん家で寝てる。
 ったくいいのかよ俺ん家で。」

 一応は男と女だぞ。

 こっちの心配をよそに電話口からは呑気な声がする。

「美雨ちゃんはしっかりしてるから大丈夫じゃ。」

 しっかりって。
 しっかりしてる奴は男の家に軽々しく上がらねー。

 何故だかその一言が口から出てこない。

 じいさんは美雨の身の上話を始めた。

「美雨ちゃんは祖父と暮らしていてな。
 その祖父は心配しておったよ。だから「私に何かあった時には」と任されたておったんじゃ。」

 そっちのじいさんか…。
 納得がいって電話を切ると部屋に戻った。

「こんな奴、追い出しもせず寝かせてやるなんて、俺もとうとう魔がさしたってやつだよな。」

 ため息混じりにつぶやいてから、風呂に入ると念入りに首を洗う。

 もう二度と思い出さないように。

 あんな野生児のガキみたいな奴に惑わされてたまるか。

 乱暴に洗い過ぎた首が若干ヒリヒリすることに満足しつつ、ソファに長い体を預けるのだった。
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