にゃんとも失せ物捜査課です
10.消えた猫
まだ仔猫たちが里親に貰われていく前。
初めて男の子と平井さんの家に伺った後。
犬飼は署に戻り、悩んでいた。
進まない書類の整理がますます進まない。
平井さんも『猫を消すおばさん』の噂のことは知っていて、木村さんのことも知っていた。
『猫を消すおばさん』と『木村さん』
知っているのなら猫が家出をして『猫を消すおばさん』に対して不安がらなくていい気がする。
木村さんが保護しているのを知っているのだから…。
疑問に思いながらも平井さんに仔猫たちを渡した後、木村さんと会うことにした。
平井さんに教わった家に行くと、優しげな木村さんが出てきてくれた。
ただ、何かに怯えているようで、警察手帳を見せた時の木村さんが、ひどく動揺したように見えた。
木村さんは人見知りなのかもしれない。
そう思っても何か拭いきれない違和感のようなものを感じてしまった。
なんの根拠もないのに、犬飼はこの木村さんが血の海の事件に関わりがあるような気がしてしまっていた。
根拠はない。それなのに保護している猫の話以外を聞いてしまってはまずい気がして本当に聞きたいことは聞けなかった。
だいたい数分会話しただけでも分かるほどの優しい人柄。
そして猫を愛しているのは平井さん以上なのではないと思えるほどに、たくさんの猫と暮らしていた。
そんな人があれだけの血の海ができる数の猫を『消せる』とは思えない。
物理的な問題というよりも、感情論でしかないのだが…。
書類整理をしながらも上の空の犬飼の耳に美雨の声が届く。
「ワンちゃんいい人。」
ハッとしてそちらに視線を移すと、机に腕を置き、その腕の上に頬を乗せている美雨と目があった。
いい人ってあんまりいい意味じゃない気がするよな。
怪訝そうな顔を向ければ、ふふっと笑われた。
おいおい。
なんでそっちが上からなんだよ。
腹立たしさを感じながらも、昨日みたいなひどい事態にならないうちにと、今日の寝床に関しての質問をした。
「今日こそはビジネスホテルでもなんでもいいから他で泊れよ。」
「なんで?」
「あぁ?」
理由なんて単純明快じゃないか。
「ワンちゃんと一緒がいい。」
アホなことを口走るな!
「だってワンちゃん……。
ワンちゃんのこと好きなんだもん。」
深い意味があるとは思えない言葉なのに胸がドクンと騒がしい。
何を動揺してるんだ。
もうそういう気持ちにはならないって決めたじゃないか。
そう自分に言い聞かせると口を開く。
「俺はそういうのは求めていない。」
寂しげな美雨の顔に僅かに心を痛くした。
初めて男の子と平井さんの家に伺った後。
犬飼は署に戻り、悩んでいた。
進まない書類の整理がますます進まない。
平井さんも『猫を消すおばさん』の噂のことは知っていて、木村さんのことも知っていた。
『猫を消すおばさん』と『木村さん』
知っているのなら猫が家出をして『猫を消すおばさん』に対して不安がらなくていい気がする。
木村さんが保護しているのを知っているのだから…。
疑問に思いながらも平井さんに仔猫たちを渡した後、木村さんと会うことにした。
平井さんに教わった家に行くと、優しげな木村さんが出てきてくれた。
ただ、何かに怯えているようで、警察手帳を見せた時の木村さんが、ひどく動揺したように見えた。
木村さんは人見知りなのかもしれない。
そう思っても何か拭いきれない違和感のようなものを感じてしまった。
なんの根拠もないのに、犬飼はこの木村さんが血の海の事件に関わりがあるような気がしてしまっていた。
根拠はない。それなのに保護している猫の話以外を聞いてしまってはまずい気がして本当に聞きたいことは聞けなかった。
だいたい数分会話しただけでも分かるほどの優しい人柄。
そして猫を愛しているのは平井さん以上なのではないと思えるほどに、たくさんの猫と暮らしていた。
そんな人があれだけの血の海ができる数の猫を『消せる』とは思えない。
物理的な問題というよりも、感情論でしかないのだが…。
書類整理をしながらも上の空の犬飼の耳に美雨の声が届く。
「ワンちゃんいい人。」
ハッとしてそちらに視線を移すと、机に腕を置き、その腕の上に頬を乗せている美雨と目があった。
いい人ってあんまりいい意味じゃない気がするよな。
怪訝そうな顔を向ければ、ふふっと笑われた。
おいおい。
なんでそっちが上からなんだよ。
腹立たしさを感じながらも、昨日みたいなひどい事態にならないうちにと、今日の寝床に関しての質問をした。
「今日こそはビジネスホテルでもなんでもいいから他で泊れよ。」
「なんで?」
「あぁ?」
理由なんて単純明快じゃないか。
「ワンちゃんと一緒がいい。」
アホなことを口走るな!
「だってワンちゃん……。
ワンちゃんのこと好きなんだもん。」
深い意味があるとは思えない言葉なのに胸がドクンと騒がしい。
何を動揺してるんだ。
もうそういう気持ちにはならないって決めたじゃないか。
そう自分に言い聞かせると口を開く。
「俺はそういうのは求めていない。」
寂しげな美雨の顔に僅かに心を痛くした。