にゃんとも失せ物捜査課です
 急に話し出した美雨に犬飼と同様に木村さんも驚いた顔をしたが、ホッと顔を緩めて初めて見せる柔らかい表情になった。

「そうね。この刑事さんなら正直に話した方がいいかもしれないわね。
 私もずっと誰にも言わずに過ごすことに疲れてしまったわ。」

 やはり何か隠しているらしい。

 それにしても美雨の言葉がきっかけになるとは、前の小学生の時と言い、何か見えない力が働いていると思えてしまいそうだ。

「血の海のような場所で亡くなった向島さんのことを調べていらっしゃるでしょ?
 あの方が亡くなった時、私はあそこにいました。」

 その場にいた………。

「あの方は猫が嫌いだったんです。
 それもものすごく、病的なほどに。」

 そこまで話した木村さんは辛そうに顔を歪め、目に涙を浮かべた。
 口元に手を当てて、辛そうに声を震わせた。

「ごめんなさいね。思い出してしまって。」

 いつの間にか木村さんの隣に移動していた美雨が優しく背中をさする。

「大丈夫…。大丈夫…。」

 穏やかな声は不思議とこちらも落ち着いていくようなそんな気持ちにさせた。
 木村さんの表情も落ち着いていく。

「ありがとう。もう大丈夫よ。
 ちゃんと話さなきゃね。」

 微笑んだ木村さんが続きを話し出した。
 それは想像していたものとはかなり違うものだった。

「向島さんはかなりの猫嫌いで、あの日、どうにも我慢できなかった長年の恨み辛みを解消しようとしたらしいわ。
 彼女がそう言っていたもの。
 ………猫を…殺したの。それも大量の。」

 最後の方は声を震わせて話した木村さんは、また辛そうな顔をして目に涙を浮かべた。

 猫を殺した。
 それは木村さんではなく向島さんだった?

 続きを知りたくて急かしたい逸る気持ちを抑え、木村さんの呼吸が整うのを待った。
 美雨は木村さんの隣に寄り添い、優しく背中をさすり続けている。

「用意していた猫用の餌やマタタビなんかで野良猫をおびき寄せたらしいの。
 その中には外にお散歩に出るような飼い猫だっていたわ。
 それでも彼女にしたらどうでもいいことで、私にしたってどんな猫だって同じ命よ。
 大切だわ。」

 声を震わせ、自分の体にぎゅっと腕を回す木村さんは体もカタカタと震えている。

 もう話さなくて大丈夫です。
 と何度も言ってあげたくなるが、それを犬飼も堪えた。

 聞くことはきっと木村さんのためにもなるはずだ。

「そして集まった猫はマタタビで酔っ払っちゃって、その上、何か薬を餌に混ぜたのかもしれないわね。
 抵抗しない猫ちゃん達を次から次へと…。
 うぅ……。」

 なんてひどいことを。
 それであの血の海が出来上がったのか。

 しかしそれではどうして猫の死体がないのか。
 どうして向島さんは死ぬことになってしまったのか。

 その答えを木村さんは知っているのだろうか。
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