にゃんとも失せ物捜査課です
「私は残虐しているところへたまたま行ってしまったの。
 助けることも出来ず、ただ向島さんの猫への恨み、だからおびき寄せて殺しているということを聞かされたわ。」

 本当にもういいんだ。
 そう言いたくなる内容だ。

 猫が好きで猫を保護しているような人がどんな思いで見ていたのか。
 どんな猫への恨みがあろうとも向島さんの行為は許されるものではない。

「それでも私は向島さんの理不尽な行いに「あなたは間違っている」と声を荒らげたの。
 そしたら彼女、気が狂ってしまっていたのね。
 私にまで猫を刺していた刃物を向けて近づいてきて……。
 恐ろしくて目をつぶったら「うわぁー」という叫び声と、どっしーんという大きな音がして。」

 口惜しかった。
 捜査一課の見解は正しかったのだ。
 血に滑って転んだ時の打ち所が悪かった。
 それが今回の真相。

「驚いたわ。
 助けなきゃって気持ちと、でもどうして助けなきゃいけないの?って気持ちで混乱してしまって。
 その場から逃げ出してしまいました。」

 辛そうに告白していた木村さんは、ふーっと息を吐いた。

 本当にそれだけ?
 そしたらどうして猫の死骸がどこにもないんだ……。

 犬飼の疑問を知ってか知らずか木村さんの話はまだ続いた。

「それで、どうやって帰ったか分からないまま家に着いて少しすると何匹かうちの猫も帰って来たの。
 手と顔に血がついていたから、あの場にこの子達もいて、刺されたんだわ。と急いで手当てしようとしたのよ。
 そしたらどこにも傷がないの。」

 それは………どういう……。

「たぶん猫達が仲間をどこかに埋めたんだと思うわ。
 見つからないような場所に連れていったのか……。
 私もあんなに辛い状態のままにしておきたくなかったから、それで良かったと思う。」

 木村さんは涙を拭って「ありがとね。お嬢さん。」と美雨に微笑んだ。
 そして晴れやかな顔になると犬飼に向き合った。

「私は何もしてないわ。
 でもあの時、私が救急車をすぐに呼べれば向島さんは助かったかもしれない。
 でも………。」

 木村さんの言いたいことは分かる。
 万が一、助かったとして。
 猫嫌いの向島さんはますます猫への恨みが増すだけだ。

「未必の故意になるかもしれません。
 死ぬかもしれないと分かっていながら助けなかったという罪です。
 しかしこの話をしていただけたお陰で事件は完全に解決できます。
 ……罪に問われることがないと俺からは言えないですが…………。」

 本当、なんのために刑事やってんだ。俺。

 やっぱり真相なんて究明しない方が良かったんじゃないのか。
 そんなことを思ってしまう。

「いいえ。大丈夫よ。
 話せて良かったわ。心が軽くなったもの。
 警察署までご一緒してくれるんでしょう?」

 晴れやかな声で言ってくれた木村さんの優しい微笑みを犬飼は見ることが出来なかった。
< 33 / 45 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop