libido−軌跡−
二人の関係を恋人だと疑ったのは一瞬だけで、すぐにそんな間柄ではないと気づいた。

けれど不思議でならなかった。

互いを「君」と呼び合い、触れそうな距離にいても触れることは無い。
その二人の距離と関係性が不思議でならなかった。

自身が抱く彼女への気持ちを理解したのはストーカー紛いな行動をとってから随分とあとになってだった。

「弁護士なんですか?」
「そうだよ」
「頭良いんですね!すごーい」

無理矢理に連れてこられた飲み会で、同僚や後輩数人の鼻の下が伸びているのを見て理解に苦しんだ。
大手商社のOLという女性陣が全てジャガイモに見えたからだ。

これはまずい。
女性がジャガイモに見えるだなんて初めてのことで、どれだけ困惑したことか。

気づけばフローラルな甘めな香りを纏わせたジャガイモがそっと俺のスーツに手を伸ばしていた。
ホラーのような絵面だった。

同僚曰く、この時の俺の顔はかなり見ものだったらしい。
生涯忘れることは無いと言われた。

俺も、女性の顔がジャガイモに見えるなんてことは生涯忘れることは無いだろうと思う。

そんな奇妙な事があってからは極力飲み会にも顔を出さなくなった。
元々積極的だったわけでも無く、ただ盛り上がるからと連れまわされていただけだったし、終着地点を考えていない俺が行ってもなんの意味も持たないことはわかりきっていた。






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