libido−軌跡−
その日カウンターにいたのは彼女と、もう一人の女性。しかも誰もが知るくらいに有名で大人気モデルのアイラだった。

そんなモデルと並んでも見劣りしない彼女に感動を覚えた。

「別にブランド志向が悪いってわけじゃないわよ?」
「わかってる。それにお金を掛ければ良いってものでも無いしね」
「そうでしょ?それに、お金を掛けると言うなら、あら、噂をすれば」
「アイラ、久しぶり」

そこにいつもの男が現れる。

「お久しぶり。相変わらず暗いわね」
「その嫌味も相変わらずだね。噂って俺の?」

こんな華やかな二人を目にしても、男はいつもとなんら変わらなかった。

「君が一番服にお金をかけてるって話」

彼女の言葉にモデルのアイラが笑う。

「今日のはいくらなの?」
「随分と即物的だね」
「どうせ値段なんて覚えてるはず無いわよ。けどそのコートだけでもう十万超えてるでしょ」

彼女の言葉にアイラだけでなく、俺でさえも目を見張る。
何に驚くかって、そんなの決まってる。『見えなさ』だ。

「服の値段なんて関係ない。着心地が良いかどうかだよ」
「君の場合は、でしょ」

男の言葉に彼女がそっと付け足した。
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