桜時雨の降る頃

「朔斗は自分でも分かってないと思うけど、
雫のことだけには優しいし、よく気がつくんだよ。悔しいくらい」



陽斗の言ってることが俄かには信じられなくて何度も目を瞬いてしまう。


「昔、雫が部の先輩に呼び出しされた時も、雫の態度が変だったって、杉崎から話を聞き出したのも朔斗だった」


佳奈ちゃんから、双子を呼びに行ったわけじゃなかったの?


そういえば、翌日佳奈ちゃんにお礼を言ったら
双子の行動が早くてビックリした、と笑っていたけど……


呼びに行く前に朔斗が佳奈ちゃんのとこに来たってことだったのか、と思い至る。


「たぶん、俺、朔斗には負けっぱなし」

情けないな、と呟く陽斗の表情は、俯いていたからよく見えなかったけれど

きっとわたしには見て欲しくない顔をしてる。


陽斗がそんなことで自分を卑下することなんてないのに。


わたしは胸が痛くなって、自分の手をぎゅっと握りしめた。


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