桜時雨の降る頃
少しだけ流れる沈黙の後、わたしが先に口を開く。
「陽斗、そんな自分を責めることない。わたしは、陽斗にしてもらったことたくさんあるよ?
陽斗といると心がね、ほんわかするの。あったかくなる」
照りつけるような熱さじゃなくて、
それはまさに、陽だまりのような
癒やされる温かさ。
昔から思っていたことだ。
小さい頃、言ったことがあるような気がする。
『はるとは、おひさまみたいだね』って。
ふと、顔を上げた陽斗が
わたしを真っ直ぐに見つめた。
その熱く灯がともったような瞳には決心が滲み出ていて
わたしはまた、目が逸らせなくなった。
「…………俺、誰にも雫を渡したくない」
陽斗が言ったその時、
ドォーン、と大きな炸裂音が頭上で鳴り響いた。
反射的に空を見上げると、大きな幾重もの輪が広がって光が降り注いでいる。
打ち終えた花火がゆっくりと消えていく様を見届けてから、そのまま視線を陽斗に戻した。
多分その時のわたしは、バカみたいに口をあんぐり開けていたと思う。