桜時雨の降る頃
「今すぐ返事はいらない。

考えて、俺のこと」



ふわりと微笑ったこの顔が、わたしは好きだ。

ささくれ立った心を穏やかにしてくれる笑顔。



「……わかった。でも、ひとつだけ言わせて。

わたしにとっては、2人とも大事な幼なじみで

特別な男の子だよ、だいぶ前から」


とっくに、“ただの幼なじみ”とは言えなくなってた。


「わたしがどんな答えを出しても、勝ち負けとか、そういうふうには考えないで」

お願いだから。

双子の絆を壊すようなことになってほしくない。

『陽斗以外の男を選ぶなよ』と言った朔斗の言葉が過ぎる。あれは、朔斗も含めて、だろうか。



わたしの訴えを静かに聴いていた陽斗は、コクリと小さく頷いた。



頭上では、連発花火が鳴り響いている。


そこで、朔斗がやはりレジ袋を提げて戻ってきたのが見えた。


「ほい、ただいま」


そう言って、袋から焼きとうもろこしを取り出してニッと笑った。

「うまそーだろ?」

途端に漂う少し焦げたような醤油の香ばしい匂いがわたしの食欲をくすぐる。


「くれるの?」


「やらねーよ、全部食われる」


「ひっど! そんなことしないよ」


そう言いつつも、朔斗が持つ焼きとうもろこしに無理矢理口をつけると、シャリ、と甘じょっぱい味が口の中に広がった。


「あーっ!! やったなお前!!」


「朔斗が意地悪言うからですー」

ふーんだ、と子供じみた拗ねたマネをしながら思った。


朔斗とは結局いつもこうなるんだなって。








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