桜時雨の降る頃
それからしばらくして、雫の目が覚めたと聞き
ふらりと足を病室へ向けた。
「朔斗くん……」
俺の姿に気付いた雫の母さんが声をかけてくれるが
ぺこりと会釈だけしたものの、何も言葉が出てこなかった。
雫の父さんも気遣わしげに俺を見て、目を伏せた。
「……すまない」
小さく言う雫の父さんの声が震えていた。
隣では、うっ、と雫の母さんが嗚咽を漏らす。
ーーーーそうか、知ってるんだな。
そりゃそうか。
謝罪なんていらない。
何も悪いことなんてしてないんだから。
首をフルフルと横に振ってもう一度会釈した。
「陽斗くんのことは、まだ話してない。
ようやく目を覚ましたところでね。本人は何が起こったか分かってないみたいだ。記憶が混乱してるんだろうね。
…僕から話していいかな?」
念を押すように、雫の父さんが訊いた。
本来なら、ここは大人に任せるべきなのかもしれない。
けどーーーー
俺はギリっと奥歯を噛みしめるようにして、告げた。
「いえ。僕から言わせてください」