桜時雨の降る頃
最後はどうしても言うのが辛くて尻すぼみになってしまった。
それでも何とか雫の耳には届いたようで、
彼女の瞳が大きく見開かれて固まった。
しばしの沈黙の後、静かに彼女は告げた。
「連れて行って」
震える声で弱々しいのに、やたらと意思のこもった瞳。
俺は少し躊躇しながらも、雫を連れて陽斗がいる部屋へ向かった。
薄暗い廊下に、母さんのすすり泣きが聞こえてくる。
雫の姿に気付いて母さんが声をかけるも、それ以上会話は続かず。
雫は、部屋に掲げられたプレートを見て
足が止まった。
「……朔斗、ホントに?」
「……あぁ」
「ここに、いるの?」
「……あぁ。会ってやれよ」
言いながら、泣きそうになった。
雫は震える手で、キィ、と音が響くドアを開ける。
そっと雫の背中に手を寄せて、
部屋の中へ導きながら今度は俺がドアを閉めた。
ペタンペタン、とスリッパの音を響かせながらゆっくり寝台に近づいていく雫。